ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「瑠奈?」


後ろから声をかけられて、たった三歩で歩みを止めてしまった。だけど、振り返ることができない。だってその声は、よく知っている人の声だったから。


「瑠奈だろ。こんなところで何してるんだ」


足音が後ろから近づく。私の身体は金縛りにあったように動けなくなっていた。


「やっぱり。どうして返事もしないの」


やがて私の肩を叩き、顔をのぞきこんだのは……想史だった。その瞳に吸い込まれそうになり、慌てて視線を逸らしてうつむく。どうしてこんなときに……。


「って、俺が叩いたりしたからだよな。ごめん」


うつむいた視線の先に、想史の頭が見えてビックリする。私なんかのために、頭を下げてくれているの?


「理由はどうあれ、女の子を叩くなんて最低だよな。いても立ってもいられなくて。謝ろうとして家に行ったら誰もいなくて……」


顔を上げて、想史はそう説明する。そうか、私を叩いたことを悔やんで、家まで謝りに来てくれたんだね。私の方が、ひどいことを言ったのに。


「一度帰ろうとしたら、こんなところにいた」


たしかに想史の家は、うちからここを通ると近道になる。まさかそんな偶然に見つかってしまうなんて、思いもしなかった。




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