ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「ほんと、大丈夫だから」
早くあの夢の世界に行きたいの。このまま想史といたら、ずるずるとこの世界に居続けてしまう。
「誰かと待ち合わせでもしてるのか? もしかして、彼氏とか」
彼氏? ぴたと足が止まる。そんなのいないよ。だって私はずっと子供の頃から、想史に片思いしてたんだよ。そんな私の想いも知らないで、バカみたい。バカみたいだよ……。
「そうだよ。だから、ここからは来ないで」
見上げて言い返すと、想史は目を丸くした。そして、どうしてかわからないけど、少し傷ついたような顔をする。どうしてそんな顔をするの。やめてよ。
後ろ髪を引かれる気分だったけど、振り切るようにずんずん歩き出す。すると想史はもう追ってこなかった。
そう、私は彼氏に会いに行くんだ。早く会いたい。あっちの世界の想史は、他の女の子と付き合ったりしない。私を見てくれているんだから。
ぼんやりと灯る街灯が不気味に感じる夜の公園。塗装が剥げた動物の遊具がこちらを見つめている気がする。
早足が、小走りになっていく。すべり台を見つけると、一目散に駆け出していた。