ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「瑠奈、餃子焼けたわよー」


いつも忙しい、面倒臭いと言ってなかなか作ってくれない餃子だ。だけど私も朔も、既製品の餃子よりお母さんの餃子が好きだった。その点は意見が合ってたな。なんて、そんなこと今思い出さなくてもいいじゃない。元の世界のことを振り切りながら階段を降りていく。


「やったー、いただきまーす!」


明日は学校だけど、いいや食べちゃえ。食卓に着こうとすると、お母さんが私の顔を見て眉根を寄せた。


「どうしたの瑠奈! 顔が真っ赤なんだけど」


えっ。思わず想史に叩かれた方の頬を手で隠す。すっかり忘れてた。


「あ~えっと……実はさっき自転車でちょっと転んで他人様の家の塀に顔をぶつけまして」


しどろもどろな言い訳をすると、お母さんは「もう」と言って冷蔵庫から保冷剤を取り出し、それにタオルを巻いて差し出してくれた。


「冷やしておきなさい。女の子なんだから気をつけてよね」


たったそれだけのことなのに、胸が熱くなった。こっちのお母さんはちゃんと私を見てくれている。嬉しくて涙が出そう。


「へへ、うん。気を付けるね」


相手が優しいと、自分も素直になれるんだ。もう頬の痛みなんて全然感じなかった。


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