ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
幸せな時間は、あっという間に過ぎてしまう。こっちの世界に来てからもう一週間が経っていた。
「あんた、本当に幸せそうな顔してるわ」
授業の休み時間に穂香が呆れたような顔で言う。
「そっかなあ」
元の世界では穂香が幸せそうで、私はいつもしみったれてたもんね。どうだ、彼氏いない寂しさを思い知ったか。って、こっちの穂香に言ったって仕方ないんだけど。
「ねえ、想史とはもうキスとかしたの?」
「えっ! し、してないよそんなの」
実際、想史は部活で忙しくて、それほど長く一緒にいる時間はない。あったとしてものんびりと話をしているだけで、そんな雰囲気になったことはなかった。
「は? 今時中学生、いや小学生でもしてるよ。あんたたち、未だに年少さんなの?」
ひどい。たしかに私たちは年少の頃からの知り合いだけど。
「もー、いいの。私たちには私たちのペースがあるのっ」
想史が私を想ってくれているだけで、じゅうぶん幸せなんだから。余計なこと言わないでよね。私に女子としての魅力が足りないんじゃないかとか、悲しいことを考え出すとダメなんだから。
自分が悪い考えに捕われるととことん落ち込む性格であるということは、最近よくわかったもん。