ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
それにしても私、本当に元の世界では嫌なやつだったな。朔の事や想史の綺麗な彼女のことを妬んで、嫌って。今思えば完璧な逆恨みだよね。
前を向いて、勇気を出して、頑張れば夢は叶うなんて一昔前の応援ソングみたいに人生はうまくいかない。それはそうだけど、もう少し希望を持っても良かったような。
元の世界を離れて客観的に見るとわかることがある。けど、それも全て意味のないこと。
こっちの世界では妬みも恨みもなく、素直な気持ちでいられる。自分が心の中から綺麗になれたような気がする。それでいいじゃない。生まれ変わったと思って、こっちの世界で頑張ろう。
穂香の言葉に相槌を打ち、歩みを進める。その日の昼から、急に雨が降り始めた。
「すごいな」
「台風来るなんて、言ってたっけ?」
授業中から空に黒い雲が垂れこめ、教室が暗くなる。すぐに強い雨が降りだし、風でガラス窓に叩きつけられる。
天気予報では今日も晴れのはずだったのに。思わず授業を放って皆が外の方を見てしまうくらいの、強い雨。
まるで、この世界ごと洗い流してしまいそう。あまりに大きな雨音を聞いていると、不安になる。ふと朔の言葉を思い出した。