ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
『もう行かない方がいい。本当に戻れなくなる』
私の中で、元の世界が消えていく。こっちの世界が私にとっての現実になる。ということは、元の世界の私は私でなくなるんだろうか。このままこの世界にいたら、体ごと消えてしまうんだろうか。この雨に押し流されるようにして。
それでもいい。そう思ってこちらの世界に来たはずだった。なのに胸の中にまで嵐が侵入してきてしまったみたい。逆巻く風に心が揺れる。
「暴風警報が発令された。六限終わったらすぐ下校だぞ」
昼休みが始まって職員室に戻った担任がすぐに帰ってきた。
「どうしていきなりこんな嵐になったのかな。異常気象ってやつ? こわー」
穂香が窓の外を見ながら言う。
「本当に……」
台風だったら、前日か前々日くらいから情報が出るはず。単に私が知らなかっただけじゃないみたい。クラス中が急に巻き起こった嵐に騒然としていた。
なんだか気分が悪くて、授業はまったく頭に入って来なかった。けれど六限が終わった時、空は今までの暴風雨が嘘のようにからりと青く晴れ上がった。
「なんだ、雨やんだじゃん」
帰り支度をしながら、クラスの男子が言う。と、それを見守っていた担任が呆れたように声をかけた。