ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「さ、俺たちも早く行こう」
想史が私の背中を押す。そうだ、台風の目に入っているうちに帰らなきゃいけないんだった。帰路を急ぐ生徒たちは皆早足で学校を去っていく。私たちもそれにならった。
急いで帰ろうとするのだけど、風は向かい風。しかも強烈に強いものだから、なかなかスムーズに進めない。そのうちぽつぽつと、こらえていた涙を流すように、雨が空から落ちてきた。
「げっ」
「うわ、私傘持ってないよ。想史、持ってる?」
その大きなスポーツバッグの中にきっと折り畳み傘が……。
「ない」
「うそー!」
ぽつぽつと落ちてきた雨はやがてぱらぱらとアスファルトにシミを作っていく。そしてすぐ、ざあざあという豪雨に変わった。
「いやー!」
家まではまだ距離がある。これじゃずぶ濡れになっちゃうよ。バッグをおじさんのセカンドバッグみたいに頭の上に乗せてみるけど、ほとんど防御力はない。
「しょうがない、こっちだ!」
想史が私の手を取って引っ張る。引きずられるようにして走ると、足元で水がバシャバシャと跳ねた。
「くっそ、早く変われ!」
運悪く赤信号につかまってしまい、止まらざるを得なくなる。白い無数の線が斜めに走っているように見える雨のカーテンの向こうがはっきり見えない。横断歩道の向こうに、ぼんやりとした人影があるようだけど……。