ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「ちょっと小降りになるまで待つか。これだけ濡れちゃったら一緒かもしれないけど」

「ううん、雨宿りに賛成。視界が悪くて危ないもん」


土管の外では風や雨がごうごうと鳴っている。がらがらと放られていた資材が転がる音もした。何が飛んでくるかわからないから、おさまるまで少し待った方が良さそう。穂香は無事に帰れたかな。

狭い土管の中で想史と二人でいると、まるでそこだけが雨のカーテンに遮られた異世界のように感じられる。

走ってきて乱れた息が整ったころ、私の方からぽつりと話しはじめた。


「私ね、違う世界にいたんだよ」


何故かはわからないけど、そんな言葉が口を突いて出た。反響した言葉に想史がこっちを向く。


「は?」

「違う世界の……夢? 長い長い、夢を見ていたの」


この前まで、私は元の世界を現実でこっちが夢だと信じていた。でも今は、どっちも実在する世界なのだと思っている。同じ次元で、でも違う時空の、一卵性双子のようにそっくりだけど、少しだけ違う世界。

そんなこと想史に言っても混乱させるだけなので、元の世界のことは夢と言っておくことにした。


「どんな夢?」


興味を持ったように、想史が顔を近づけて聞いてきた。


< 129 / 179 >

この作品をシェア

pagetop