ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


「私にはね、双子のお兄ちゃんがいたの。名前は朔。これがハイスペックな男でさ、二卵性で私とは似てなくてイケメンなのね。勉強もスポーツもできる、嫌味なやつだった」

「欠点なしか。そりゃ嫌味だ」

「そして穂香の彼氏なの」

「あの穂香を選ぶなんて、大物だな」


穂香は顔が綺麗なばかりか頭も良く、家はお金持ち。勝ち気で口が達者なので、男子の間では完全に高嶺の花として扱われている。そのせいでこっちでは彼氏がいない。


「まあそんな兄だからさ、私はいつも比べられて惨めな思いをしているわけよ」

「へえ」

「だけど……本当に長い夢でね。お母さんのお腹にいた頃から朔と一緒だったの。小さな頃は仲が良かったのにな。思春期なのもあっただろうけど、朔と差を付けられはじめてから、距離が開いちゃった」


というか、私の方が先に朔を避け始めたんだ。思春期になって男子なんて皆バカで汚いものに思えていたのも確かだけど。普段はサッカーばっかりで、友達とほどほどにバカなことをやっているのに、勉強ができる朔が妬ましかった。自分は真面目に生きていたのに、あまり評価されなかったから。


「なんかリアルな夢だな。そういう兄弟、普通にいそう。そっか、しんどかったんだな」


大きな手でタオルを乗せたままの頭をなでられる。そんな優しい仕草のひとつひとつに、傷ついた心が癒されていくのを感じる。


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