ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「一人っ子になりたいよう」
まるで園児のような泣き言を言い、膝を抱える。一人っ子だったら、誰かと比べられることもなかったのかな。愛情を独り占めできたのかな。もっと自信を持って歩けるようになっていたのかな。
「朔さえ、いなければ……」
朔がこの世界からいなくなればいい。どこか遠い外国の気の良い夫婦のところに養子にいけばいいのに。他人はバカげた妄想だって笑うだろう。だけど私は本気だ。
「朔なんて大嫌い! 朔のいない世界に行きたい……!」
顔を上げて、空に向かって叫んだ。すると涙でにじんだ視界のど真ん中に、月が浮かんでいた。
「え……?」
ドキッとして、目をこする。だって、見間違いだと思ったんだ。でなければ、泣きすぎで目が霞んでいるはず。だって、だって……目の前に、そっくり同じ月が二つ浮かんでいる。
丸まった貝殻みたいな、ハッキリしない形の月。乱視でもないのに、それは綺麗に二つに見えた。何度まばたきしても、それは二つのまま変わらない。
ごくりと息を飲み込む。私は今、何を見ているのだろう。
言葉を失ったまま月をにらんでいると、それはゆっくりと動き出した。左右にあった月が、引き寄せられるように重なっていく。