ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
「……え……!?」
嘘でしょ。そんなこと、あるわけがない。バッとドアを勢いよく開く。その中はまるで物置。朔が使っていたはずのベッドも小型テレビも、壁にかけられていた制服も、どっかのサッカークラブのタオルも、ない。
代わりにあるのは、災害時備蓄用のお水とか、缶詰とか。季節外れの服が入った衣装ケースとか、そんなものが雑多に置かれていた。
「どうして……」
まるで朔がどこかにまるごと引っ越してしまったみたい。もちろん、そんなはずはない。さっきコンビニで会ったんだもん。
「お母さん!」
わけがわからなくなった私は、転げる勢いで階段を降りた。
「なによ、騒々しい」
キッチンで洗い物をしていたお母さんが眉をひそめて私を見る。
「朔は? 朔のベッド、どうしちゃったの? あいつ、今どこに……」
「ちょ、ちょっと待って瑠奈」
「朔の部屋が変なの。何もないの。ねえ、朔はどうしたの?」
顔も見たくないと思っていたけど、いざ煙のように失踪してしまったとなれば話は別。妙な胸騒ぎを覚え、じたばたとその場で足踏みをしながらお母さんに詰め寄る。