ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
何より、想史。彼があの綺麗な彼女ではなく、私を選んでくれた。朔がいないから遠慮なく告白できたおかげだ。
こっちの世界では絶対に出せない勇気が出せたおかげで、両想いになれた。
誰もが、朔というフィルターを通さずに私を見てくれる。比較されることがないって本当に自由で、あっちならもっと色んなことを頑張れそうな気がした。頑張れば評価してくれる人もいるし。
それに比べて、この世界の私は何だ。全然自信がなくて、卑屈で、惨めで……。
「私……ずっとあっちにいたかったな」
ぽろりと零れたひとこと。悪気はなかったのに、朔が一瞬だけすごく悲しそうな顔をした。ハッとすると、彼は苦笑する。
「そっか。俺がいない世界はそんなに快適だったか」
眉をひそめ、口元は微かに笑っている。でも、目は笑っていなかった。ずっと一緒に育ったからわかる。
そりゃ感じ悪いよね。朔は夢の中で私がいなくて一生懸命走り回ったっていうのに、私の方は毎日ドキドキして楽しく過ごしてたんだもん。
「朔がいない世界っていうか……あっちの方がみんな優しかったし」
ああ、私ったらごまかし方が超ブサイク。もごもごとつまっていく言葉は、最後は消えそうなほど小さくなっていた。