ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜
朔は私のことを責めもせず、天井を見た。首が疲れたのかもしれない。
「だけど、もう行かない方がいい。本当に戻れなくなる」
「え……」
「カンだけど、そんな気がする。こっちのやつらが心配するし、悲しむから。あんまり行方不明になるなよ」
朔の言葉は、まるでもう一つの世界が実在すると信じているようで。この世のものではないような、不思議な響きがした。
戻れなくなる……。その意味は、少しわかるような気がした。あんまりあっちの生活に慣れすぎると、こっちの世界の事を忘れてしまいそうになる。でも。
「そんなことないよ」
だって私、想史に叩かれたんだよ。それで顔を真っ赤にしてても、誰にも気づいてもらえなかったんだよ。こっちの人たちは誰も、私がいなくなっても心配したりしない。
「私がいなくなっても、誰も困りやしないよ」
よくよく考えたら、小さい頃からそうだった。保育園のとき、朔が休むとたくさんのお友達に『さくちゃん休み? どうしたの?』と聞かれたものだ。だけど私が休んだ時は誰も何も聞いてこなかったと朔に聞いて、子供心にショックだったのを覚えている。
「朔だって、私がいない方がいいでしょ。単純に子供の数が少なくなるんだから、お小遣い増えるよ」