独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
そのまま下がろうとしたけれど、出来なかった。榊さんに「麻莉!」と凄味のある声で呼び止められたからだ。
「麻莉はここに残れ。お前がコーヒーを持ってこい」
榊さんに顎で指図され、店長はどうしたらいいものかといった顔でちらりと私を見た。
そして少しの迷いのあと、「ただいまお持ちいたします」とこの場から離脱する。
私も逃げ出したい。
自分の中で膨らんでいく怯えを必死に抑え込みつつ、私は挑むように榊さんをじっと見つめた。
「私がここで働いていることを、母から聞いたのですか?」
問いかければ、榊さんが薄く笑った。
「余計なことを言いやがってとでも思っていそうな顔だな」
「その通りです。だって、私とはなんの関係もないあなたに言う必要などまったく……」
再び榊さんがテーブルを叩いた。その音にびくりと身を竦める。
「俺に恥をかかせておいて、その言い草はなんだ」
私は軽く唇を噛み、折れそうになっていた心をなんとか奮い立たせた。必死に言葉をつなげる。
「よく考えてみてください。他の男性を思っている私と結婚しても、お互い幸せになどなれません。榊さんにとって昨日の事は屈辱的だったかもしれませんが、決してマイナスにはならないはずです」