独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
「だったらこうすればいい。俺たちは形だけの夫婦になる。お前も俺も、家の外でのことには干渉しない。愛人という形ならば、あの男だって喜んでお前との関係を続けてくれるだろうよ」
「いい加減にして下さい! 手を離してっ!」
カッとし榊さんの手を大きく振り払った瞬間、鈍い痛みが走った。私の手が榊さんの頬に当たってしまったのだ。
「……麻莉」
顔をしかめて、榊さんが唸るように私の名を口にした。
続けて、ホットコーヒーの乗ったトレーを持ち近付いてきていた店長に「早く持ってこい!」と野太い声で呼びつける。
ビクビクしながら私たちのそばで店長が足を止めると、榊さんが私をやっと開放する。
そして、湯気の立つカップを掴み取り、私の顔の前で……手を離した。
陶器の割れる音が店内に響き、私はぎゅっと目をつぶる。
足にかかったコーヒーの熱さを耐えていると、榊さんが鼻で笑ったのが聞こえてきた。
「おいおい。この店は、カップの一つもまともに洗えねーのか? ぬるぬるしてて手が滑ったじゃねーか」
長く息を吐いてからゆっくりと目を開け……私は榊さんを睨みつけた。
とてもじゃないが、今のは手を滑らせて落としたようにはまったく思えない。彼がわざと落としたのだ。