独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
軽く会釈をしながら、向かい側の席に腰掛けはしたけれど、さすがにコーヒーを飲む気にはなれなかった。
この社長室の厳かな空気の中、倉渕物産の社長を目の前にしての緊張感と、私自身驚きで気持ちが追い付いていない状態なので、リラックスなどできるはずがない。
「遼が今お付き合いしている女性は、君で間違いないかい?」
目のやり場に困り俯いていると、落ち着いた声でそう問いかけられた。
ハッとし顔をあげれば、社長の真剣な眼差しとぶつかり、思わず息をのむ。
「……私は、遼さんのことを大切に思っています」
返事をするだけでやっとだった。
「はい」と返事をしてしまえばいいのに出来なかった。遼のお父さんにまで、自分たちを偽ることがどうしてもできなかったのだ。
静かに「そうか」と呟いたあと、遼のお父さんはコーヒーを一口飲んだ。
「遼もいずれは結婚し、そしてゆくゆくは自分の家族だけでなく、この会社も背負って生きていかねばならん。そんなあいつをこれから妻として支えていくのも、やはり遼自身が望む女性であるべきだと思っているよ……ただね」
ふいに声音が変わったことに、重く鼓動が鳴り響いた。