独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
少し軽くなったコーヒーのポットと使わなかったカップなどが入った紙袋をそれぞれ持って、私は社長室の扉を静かに閉めた。
小さく息を吐いてから、その場からゆっくりと歩き出す。俯き加減で、そして少し足早に倉渕物産を後にした。
エレベーターの前で足を止めた瞬間、ちょうど扉が開き、男性の話し声が聞こえてきた。
誰かが降りてくる気配に、さらに顔を伏せてしまう。
今は誰にも顔を見られたくない。そんな気分だったからだ。
エレベーターを降りた人々が倉渕物産の出入り口の方へと向かっていく足音が響く中、私の傍で誰かが足を止めた。
「……麻莉?」
私を呼びかけた声にドキリとした。顔を上げれば鼓動が速くなっていく。
「遼」
驚きで目を大きくさせて、遼が私を見降ろしている。
「どうしてここに?」
問いかけながら、彼は私の格好と手にしている物へと素早く視線を走らせている。
答えるまでもなく、すでに彼なら私がここにいる理由を察しているのではないだろうか。
そんなことを考えながら、私は彼に微笑みかける。
「コーヒーの注文が入って。届けに来ました」
「注文?」
「はい。無事にお届けが済んだので帰ります」