独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
「大丈夫か?」
がしりと肩を掴まれ、私はハッとする。少しぼんやりとしてしまっていた私を、遼が不安そうな顔で見ている。
「大丈夫だよ! 怒られたわけじゃないから心配しないで。むしろ私、歓迎されちゃった。お父さんのことがあるから嫌われていてもおかしくないのに」
私は手を伸ばし、遼の腕をぎゅっと掴んだ。
「それでね。私、思ったんだ……遼、あのね……」
言葉を続けようとしたけれど、すぐに私は思い直した。
「……ごめん。やっぱりあとで話すね」
「おい。気になるだろ。言えよ」
「嫌です」
受付にいる女性はこちらを見ているし、倉渕物産のオフィスからだっていつ人が出て来るか分からない。
人の目があるこのような場所ではなく、二人っきりの時に話したい。
「麻莉!」
「麻莉お嬢様!」
ふて腐れた遼の声に続いて、良く知っている声が響いた。
声のした方向へと顔を向け、私は大きく目を見開く。
通路奥の扉から出てきたらしい清掃員の女性が、瞳を潤ませこちらを見ている。
声をかけてきた相手が、誰か分からなかったのはほんの一瞬だけ。それは割烹着姿ではなく清掃員の姿をしていたからだ。