独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
やはり顔を見なくても、それが斉木さんの声だと喜多さんには分かったようで、急に顔を伏せ、足早にこの場から去っていく。
「……どうかなさいましたか?」
「いえ。なにも」
反発し辞めた手前、西沖家の関係者とは偶然でも顔を合わせたくないだろう。
名残惜しくはあったけれど、私は喜多さんの姿を目で追うことをせず、斉木さんとしっかり向き合った。
「こちらです」
いつも通りの不愛想な声と顔でついてくるよう促され、私はため息を一つこぼしてから、斉木さんのあとについて歩き出した。
連れてこられたのは五階にある客室だった。
そこには、メイク道具などを準備している女性が二人と、お母さんと美紀がいた。
部屋に準備されていた小花柄のワンピースに私が着替え終わると、すぐに女性たちがメイクやヘアセットに取り掛かる。
それを見つめるお母さんは「なにも麻莉のためにここまでする必要はないのに」としきりに文句を言っていたけれど、美紀が備え付けのクローゼットの中から「私もやっぱり着替えていい?」とあのオレンジ色のワンピースを取り出した瞬間、文句を言うのをぴたりやめた。
「仕方ないわね」とそれを許可し、次いで女性のうちの一人に「あなたは美紀をお願い」と命じたのだ。