独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます

逃げ出せたところで、こんなにぼろぼろの状態では遼に会えない。見せられない。

幸せな気持ちで遼の隣に立てるはずだったのにと悔しく思いながら、このままここで時間が過ぎていくのを待つしかないのだろうかと心が挫けそうになる。目に涙が浮かんでくる。

美紀と斉木さんの会話が飛び交うなか、目と鼻の先にあるソファーの上に置かれた私のバッグの中からスマホの着信音が短く鳴り響いた。

ふたりは会話に夢中でその音には気付かなかった様子だが、私にはしっかりとその音が届いていた。

手を伸ばせば容易く掴み取れる距離にバッグはあるというのに、手が縛られているためスマホを取り出すどころか、バッグに触れることも難しい。

さっきの着信は遼かもしれないと思えば、この状況が歯がゆくてたまらない。

もうそろそろ着くとか、今着いたとか、出迎えはなしかとか、彼が送ってきそうな言葉を思い浮かべれば、目から涙が一粒こぼれ落ちた。


「……遼」


俯いたまま、彼の名前を噛みしめるように呟けば……心に温かな火がともる。

遼ならきっと諦めない。

自分にとって不利な状況に突き落とされたとしても、ピンチをチャンスに変えるために、諦めず立ち向かっていくだろう。


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