独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
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「そうですか。来ていらっしゃいませんか」
店内は賑やかだというのに、西沖家の家政婦斉木さんの淡々とした声だけがやけに大きく響いて聞こえる。
私は身を小さくし、胸の前で握り合わせた手にぎゅっと力を込めた。
「わかりました。他をあたってみます。お忙しいところ、失礼致しました」
ようやく、声の主は帰る気になったらしい。私は少しだけ肩の力を抜いた。
「もし、麻莉お嬢様が来られましたら、早急にご実家へ戻るようお伝えください」
「はいはい。分かりましたよ。ご苦労さん」
斉木さんに続いて、店主の男性の呆れ声が聞こえてくる。しかし、そこで二人の会話は途切れてしまった。
耳を澄ませて店内の様子をうかがってはみるものの、客の笑い声、話し声、客からの注文の声とそれに応える店主の声しか聞こえてこなかった。
斉木さんの声は拾えない。もう帰ったのだろうか。果たして私は、ここから出ても良いのだろうか。
やきもきしながらも、極力身動きせずその場に留まっていると、突然目の前の戸が開かれた。眩しさに目を細めた。
「西沖、もう出てきて大丈夫だぜ。悪かったな、こんなところしか隠れられそうな場所がなくて」
体格も大きく、厳つい顔ではあるものの、隅田(すみだ)君の口元には笑みが浮かんでいる。