独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
慌てて逃げようとするけれど、足がもつれてその場に倒れ込んでしまう。
美紀の手が容赦なく私を抑えつけ、斉木さんがこちらへと手を伸ばしてくる。
「やめなさい!」
叫び声と同時に、斉木さんがつき飛ばされた。
続けて、美紀が私から引き離され、私の視界は作業着の水色でいっぱいになる。
「……喜多さん」
清掃員姿の喜多さんが、私の目の前に立っている。ふたりから私を守るように壁になってくれている。
喜多さんが肩越しに私を見て、温かな微笑みをくれた。
まだ諦めなくてもいいんだ。心の底からそう思い、涙が込み上げてくる。
ほんの一瞬目を大きくさせたのち、喜多さんは顔を強張らせたまま廊下に両ひざをついた。近づいた瞳には、自分と同じように涙が浮かんでいる。
「麻莉お嬢様……こんな……信じられない」
片手で目元を覆ったあと、喜多さんは立ち上がり、美紀と向かい合った。
「今日は、麻莉お嬢様と倉渕の坊ちゃんにとって大切な日だと聞きました。旦那様……西沖社長が話し合いの場にでると約束されたことを、とても嬉しく思っておりました。それなのに……これはいったいどういうことなのか……麻莉お嬢様をどこに連れて行くおつもりなのですか!」