独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
その風貌でちょっぴり可愛らしく笑う作務衣姿の彼を見て、ようやく私はホッとすることが出来た。とりあえず危機は脱したらしい。
「ううん。かくまってくれて、感謝だよ。隅田君、ありがとう。恩に切る」
彼の手を借り、隠れていた場所、掃除道具入れの中から出た。
ここは“居酒屋すみだ”。隅田君のお父さんと若夫婦で切り盛りしているお店である。
緊張で凝り固まっていた身体をほぐしながら、隅田君が「とりあえず座れ」と顎で指示したカウンター席へと進んでいく。
客で賑わっている店内を見回しながら席に腰掛け、私は無造作に置かれていたメニュー表を手に取った。
きっと、入口から見づらいこの席を私のために空けておいてくれたのだろう。
学生の頃からの友人とはいえ、かくまってと突然店に飛び込んできた私を、快く受け入れてくれ、こうして気遣ってもくれる。隅田君たちには足を向けて眠れない。
感謝しつつも、その反面、お金を持っていない自分が席に座らせてもらっていることに罪悪感を覚えてしまう。
このままずっと仕事の邪魔をし続けるわけにはいかない。早く店を出た方が良いのは分かっている。
しかし、財布はない。スマホもない。家の鍵もない。靴すら履いてない。どうしよう。