独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます

右手首を見れば、かすり傷があった。言われてみれば、さっきから少し痛かった。


「ちょっと待ってて」

「亜由子、待って! これくらい平気だから!」


慌てて声をかけたけど、亜由子は足早に店の奥へと入って行ってしまった。

お店はけっこう賑わっている。隅田君のお父さんがいないため、今は隅田君が一人で店を回している状態だ。

大変そうに見えるから、申し訳なさでいっぱいになっていく。

ほどなくして、救急箱を手にした亜由子が私の所に戻ってきた。


「ほら。手を出しなさい!」

「ありがとう。でも、自分でできるから、仕事に戻って」


亜由子が救急箱の中から取り出したガーゼや絆創膏を、私はかき集めていく。


「分かった。手当てしたら戻るわ。とりあえず、傷口洗おうか」

「自分でやるって!」


腕をがっちり掴まれた。亜由子に連れて行かれそうになっていると、自分の傍で足を止めた誰かが、ふっと笑った。


「それ、俺が引き受けるわ。お前は、仕事しろ」


聞こえてきた声にハッとする。まさかと思いながら振り返れば、数時間前に別れたばかりの人が立っていた。

彼が纏っている高級感と、居酒屋の雰囲気が合っていない。似合ってなさすぎて、逆に笑えてくる。


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