独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
「倉渕君……なんでここに?」
「なんで? 西沖が困ってるっぽいって連絡もらって、面白そうだから見に来た」
言い草だけでなく完璧な微笑みも嫌味にしか思えなくてしかめっ面をすると、「分かった」と亜由子が言った。
「倉渕君にあとはお願いするわ。面倒見てやって」
「……えっ」
あれほど仕事の邪魔はしたくないと思っていたのに、あっけなく身を引いた亜由子に「行かないで」と言いたくなってしまう。
「了解。ほら、こっち来い」
「……大丈夫です。一人でできますから」
「うだうだ言うな。来い」
さっきまで亜由子が掴んでいた所を、今度は倉渕君につかみ取られてしまった。
連れてこられたのは、トイレ傍にある小さな洗面台。
彼は私の手を自分の目の高さまで持ち上げた。傷口を確かめてから、勢いよく蛇口をひねり、流れ出る水の中へと私の手を移動させる。
傷口がちりっと痛んだ。思わずうめき声を上げた私に「大人なんだから、我慢しろ」とだけ囁きかけてくる。
文句を言おうとしたけれど、彼と自分の距離が近いことに気づいてしまえば、頭の中が真っ白になっていく。
自分の肩と彼の腕がぴったりと触れている。意識する必要などないのに、鼓動が勝手に速くなっていく。