独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
顔を強張らせたまま反応できずにいたけれど、完璧なラインをかたどっている彼の唇が、にやりと、意地悪く歪められたのを目にした瞬間、反射的に右足が後退した。
心の中でアラートが鳴り響く。
私は慌てて彼から顔をそらし、勢いよく背を向け歩き出す。
早くアイツから逃げなくては。何よりもまず、そう思った。
焦りで足がもつれそうになりつつも、必死にその場から離れようとした……けれど。
「おい、西沖(にしおき)」
無理だった。後ろからがっちりと腕を掴まれてしまった。
停止を余儀なくされ、私はほんの一瞬、瞳を閉じた。
「お前今、逃げただろ」
黙っていると、両肩に大きな手が乗ってきた。そして否応なしに身体が回転させられる。彼へと、強引に振り向かされてしまった。
目の前には整った顔。イケメンに肩を掴まれ向き合っているこの状態。普通だったら赤面するような場面だと思うのだけれど、私にとっては違う。
相手が相手だ。警戒心しか発動しない。
大きく息を吐き出してから、私は笑みを浮かべた。
「私に何か御用でしょうか?」
笑いながらも、棘を含んだ口調で言い放てば、彼も完璧な微笑みを顔に貼り付けてくる。
「俺に気付いたなら挨拶くらいしに来いよって、文句を言いに来た」