独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
嫌だし憂鬱だけれど、大人しく実家に帰るべきかもしれない。
すべてを諦め、肩を落とした時、倉渕君が言ったのだ。「ここにいるのも気を遣うだろ。店を変えようか」と。
「いろいろありがとう」
彼に笑いかけると、倉渕君も微笑み返してくれた。
「あっちの店には個室もあるし、びくびくしないで済むぞ。ゆっくり食べながら、明日の作戦でも立てればいい」
「お酒飲ませてくれれば、万事解決」
「またそれか。お前はバカか! 自分の身体を大事にしろ!」
叱られているのに、声は怖いというのに、彼の眼差しにはたっぷりの優しさがある。
倉渕君の綺麗な顔から目を逸らせずにいると……足がもつれてしまった。
小さく悲鳴を上げ、数秒後、私は息を飲んだ。
倒れそうになると同時に、倉渕君が私の腕を掴んだ。
そのまま引き寄せられ、私は彼の胸元へと倒れ込む。
引き寄せられたというよりは、抱き寄せられたと言った方が正しいかもしれない。
私は今、彼の腕の中にいる。
身じろぎして顔をあげれば、もちろんすぐそこに倉渕君の顔があり、彼もじっと私を見つめている。
嫌悪感なんてなかった。突き飛ばして、彼の腕から逃げ出そうとも思わなかった。
ただ、触れている場所が熱かった。