独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
倉渕君に背を向け、歩き出す。
手で押さえた胸元には、さっきとは違う苦しさが広がっている。
ひどく腹立たしいのに、悲しくて切なくて泣いてしまいそう。
同時に、自分の勝手さにも気付いてしまった。
倉渕君ならきっと、危機を脱するためのアイディアを出してくれる。
きっと彼だけが、一筋の希望を与えてくれる。
私を救い出してくれる。
そんな風に、勝手に思いこんでいた。
私は自分で感じていた以上に、彼を信じ、頼りにし、甘えていたのだ。
彼と私は特別な関係ではない。
お互い、ただの友人のひとりにすぎないというのに、なんでこんなに期待してしまっているのだろう。
たぶん、答えは心の中にある。
それもすぐに手が届いてしまいそうなところに。
でも、答えを求めてはいけないような気がした。
触れてしまったら、自分でこの関係を壊してしまいそうな気がして、怖かった。
アーケード街を抜け、駅前へと出ようとした瞬間、後ろから腕を掴まれた。
「西沖、待てって」
「離して!」
「嫌だ。俺が言いたいのはそんなことじゃない」
力いっぱいその手を振り払おうとするけれど、彼は私を離してくれなかった。