独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
「喜多さん。ご心配おかけしました。ごめんなさい」
心配してくれている。それが痛いほど伝わってきて、私もつられて泣きそうになってしまう。
「はやく麻莉を着替えさせて。のんびりしていられるほど時間に余裕などないのよ」
響き渡った母の声に、現実へと引き戻されていく。
「嫌です。着替えません。見合いも結婚もしませんから」
やはり斉木さん相手とは違う。母を目の前にすると、声が震えてしまう。ものすごく怖いと思ってしまう。
喜多さんが母へと振り返り、「僭越ながら、奥様」と静かにしゃべりかけた。
「麻莉お嬢様のお気持ちを大事になさった方が……」
しかし言葉は続かない。
母から睨みつけられ、喜多さんは身体を強張らせた。そのまま言葉が途切れてしまった。
「麻莉の肩を持つなんて……あなたは私が間違っているとでも?」
恨みのこもった母の響きに、背筋が寒くなる。喜多さんも俯いてしまっている。
「まさかあなた。昨日、麻莉が逃げ出すのに手を貸したなんて言わないわよね」
母の言葉に、喜多さんが竦みあがったのが見て取れた。私はすかさず口を挟む。
「違う! 私は昨日、一人でそこの窓から逃げ出したの! 誰の力も借りてない!」