独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
もちろん彼女は素直に「はい」と頷き、こちらに向かってくる。
「待って!」
咄嗟に、再び部屋から出て行こうとする母を、大声で呼び止めてしまった。
気だるげに振り返った母から、慌てて視線をそらす。
「……実は、私、好きな人がいます」
言うつもりはなかったのに……言ってしまった。
「お付き合いしてる男性がいます。いずれ彼と結婚したいと思っています」
昨日耳にした言葉を、当たり障りのない形を変えながら、ぽつぽつと口にする。
「だから、榊さんとは無理だと言っているんです」
私が付きつけた事実を、母はどう受け取るのだろうか。怖くて顔が見れない。
「あなたに恋人? いったいどこの誰かしら?」
質問に口元が引きつった。
「どうせたいした男ではないでしょ? 榊さんと比べるのも申し訳なくなるくらいの。くだらない」
言い返せないのは悔しかったけど、だからと言って、ここで倉渕君の名前だけを出すわけにはいかない。
黙ったままでいると、母が小馬鹿にしたように笑った。
続けて「はやくして」と手で払うような仕草をする。
それが合図になったかのように、斉木さんが私の目の前に立った。
「急ぎます」
嫌だけど、喜多さんのこともあるし、今は受け入れるしかない。
私は瞳を伏せ、小さく頷き返してから、これからどう戦うかを必死で考え始めた。