独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
「待ちくたびれたわ。はやく行きましょう」
母が独り言のように呟き、妹を伴って歩き出す。
行きたくない。
憂鬱な気持ちが足を重くする。なかなか前に進めずにいると、私を振り返り見た母が、喜多さんへと視線を移動させた。
「車まで、麻莉を連れてきてちょうだい」
反論は認めないという迫力を纏った母の言い方に、私の斜め後ろに立っていた喜多さんがわずかにその身を竦めて、顔色を悪くさせた。
「……かしこまりました」
苦悩をにじませ返事をしてから、喜多さんが私の横に並んだ。私を見る苦しげで悲しそうな瞳に、胸がキュッと切なくなる。
喜多さんの立場では、そうとしか言えないことは分かっている。逆らうということは、職を失うということに繋がってしまう。
母は甘くない。分かっているからこそ、今は、素直に従うしかない。
喜多さんが言葉を発するより前に、私は二人のあとに続いて歩き出した。
「……麻莉」
玄関で靴を履いていると、父が私に声を掛けてきた。
「……何?」
今さら私に何の話が?
突然話しかけてきたことに何事かと驚き、身構えながらも、ちくりと刺すように問いかける。
すると父が、ドアの方にうかがうような顔を向けた。