独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
唇を真一文字に結んでいる喜多さん。父は心なしか狼狽えているようにもみえる。
奥様と聞き、既に妹と車に乗りこんでいるかもしれない母の顔を思い浮かべたけれど、そんな二人を見ていたら、間違っているように思えてきた。
喜多さんの言った奥様とは、扉の向こうに存在しているその人のことを指しているわけではない。
遠い昔に亡くなった私の母のことを指していたのではないだろうか。
本当の所を知りたいと思ったけれど、口を開くよりも前に「意味が分からない」と父が低い声を響かせた。
「早くしろ」
父は蔑むように鼻を鳴らしたあと、乱暴にドアを開け放った。
「失礼しました」
足取り荒く家から出て行く後ろ姿に、喜多さんが深く頭を下げる。
顔をあげれば、いつものように明るく笑いかけてきたけれど、その表情はどことなくぎこちないもので、私はすぐにさっきの言葉の意味を聞くことを諦めた。
「……行きましょう」
ドアをぐっと押し開けながら、私もできるだけ明るく話しかけた。
「はい。麻莉お嬢様」
消え入りそうな喜多さんの声を背中で受けながら、薄暗い玄関から眩い日差しの中へと出た。