独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
石畳を進み、門をくぐり抜けた先に、西沖家の車が二台連なって停まっている。
丁度、前の車へ乗り込もうとしている父の近くに、母と姉が立っていた。
「麻莉、あなたはお父さんと一緒に乗りなさい」
父と一緒も憂鬱ではあるけれど、母や妹と同車するよりはいい。
素直に頷き返すと、母が私の隣にいる喜多さんをじろりと見た。
「あなたも一緒に来なさい」
「……私も、ですか」
「えぇ。今日一日、麻莉のお世話を頼むわね」
言いながら、母はニヤリと笑ってみせた。心に苦さが広がっていく。
会場に着いたらまた私が駄々をこね始めると、母は考えたのだろう。
実際、その通りだと思う。
結婚する気が無いのだから、今日一日、私は「嫌だ」と言い続けるだろう。
しかしまた、喜多さんの退職をちらつかせられてしまったら……黙るしかなくなってしまう。
やられたと奥歯をかみしめていると、喜多さんが小さく「かしこまりました」と呟き、私へと身体を向けた。
「お嬢様。私はいつまでも、どこまでも、あなたの味方ですよ」
私だけにしか聞こえないくらいの小さな声で囁きかけてくる。
ほんの一瞬、呼吸を忘れた。
私を見る喜多さんの瞳が、覚悟に満ちたものだったからだ。