独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
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後部座席の窓からそびえ立つ高層ビルを見上げて、私はこっそりため息を吐いた。
これから、このビルの最上部38階にある懐石料理店の個室で、榊さんと会うことになっている。
さっきから必死に、この危機をどんな方法で脱しようと頭をひねっているけれど、良い考えはまったく浮かんでこない。
こんな時、倉渕君がいてくれたら、私にどんな言葉をかけてくれただろうか。
彼のことを思い浮かべ……私はハッと我にかえった。大きく首を横にふる。
頼らないと決めたはずなのに、弱気になるとどうしても彼のことを考えてしまう。
今頃どうしているだろうか。
もう家に帰って、今日の休日をどう過ごすかでも考えているだろうか。
誰かと会う約束でもしたかもしれない。それは男性かもしれないし……女性かもしれない。
私のことなど、気にかけてすらいないかもしれない。
彼の元から逃げ出したのは自分だというのに、想像すると寂しくなってしまう。
しかしそんなことを考える傍らで、想像の全てを否定する自分もいた。
彼ならきっと今この瞬間も、私のことを心配してくれている。そんな風に思ってしまうのだ。
斉木さんに預けた自分のバッグはまだ手元に戻って来ていないから、今すぐというわけにはいかないけど、倉渕君とは近いうちにきちんと話がしたい。