独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
電話で直接話したい。会ってくれるなら、彼の顔を見て話したい。
もし、電話にも出てくれなかったら、自分の声で、言葉で、留守電に残したい。
ごめんねって、彼にちゃんと謝りたい。いろいろありがとうって伝えたい。
「麻莉、降りなさい」
開いたドアから車内を覗きこむような格好の父に声を掛けられたことに気付き、私は焦り気味に車外へと目を向ける。
車はエントランス前に停まっていて、助手席に座っていたはずの喜多さんも、いつの間にか父の後ろに控えるように立っていた。
「……はい」
車から降り、改めてビルを見上げた。
今すぐここから走り去りたい。逃げ出したい。
深く息を吐きつつ、辺りを見回してしまう。
つい逃げ隠れ出来そうな場所を探してしまうけれど、バッグを返してもらっていないため、逃亡が成功したところで昨日の二の舞になるのは目に見えている。
また倉渕君のことを思い出していると、一台の赤いコンパクトカーがゆっくりとした速度で近づいてきた。
過ぎ行きざま速度を落としたため、私は注視してしまう。
左ハンドルのその車に乗っていたのは綺麗な若い女性だった。
しかもなぜか、彼女は様子をうかがうようにこちらを見ていて、目が合った瞬間、私を指差してニコリと笑いかけてきた。