独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
見つけたとでも言わんばかりのその表情に、私は瞬きを繰り返してしまう。彼女の顔に見覚えは無かったからだ。
「麻莉! 何をしているんだ。早く来なさい」
父に再び注意され、私も「はい」と繰り返した。
喜多さんと共に入口へと歩き出すけれど、私は走り去っていく赤い車を何度も振り返り見てしまう。
彼女の顔は見覚えがないはずなのに、妙に気になって仕方がなかったのだ。
さっきの反応だけみると、彼女は私のことを知っているみたいだった。
もしかしたら、どこかで会っているのかも。
考えを改めて、先ほど見た彼女の顔を思い浮かべた。
綺麗な人だった。ここ最近出会ったというならば、覚えていてもいいはずだけど……心当たりはない。
だとしたら、学生の頃の話かもしれない。
大学? それとも高校?……後輩?
記憶の糸が繋がりそうな気配に息を詰めた瞬間、「熱っ!」と男性の声が響き渡った。
「熱いじゃねぇか! ふざけんな!」
施設に足を踏み入れてすぐの所にあるコーヒーショップの前で、がたいの大きな男性が声を荒げている。
彼の目の前には、「すみません」と謝っている線の細い男性がいる。どちらもスーツ姿だ。