独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
スリムな男性が目の前の店のロゴが入ったカップを持っている。
どうやら、ぶつかった拍子に、スリムな男性が体の大きな男性にコーヒーをかけてしまったようだ。
「てめぇ、どうしてくれるんだ! やけどしたうえに、袖にもしみができたじゃねーか! 困るんだよ!」
「申し訳ございません。服の方は弁償させていただきます」
「当たり前だ、ばかやろう! それに弁償だけじゃねぇ、治療費も必要だろうが!」
大男は怒鳴り散らしている。
周りに居合わせてしまった人たちは、驚きと怯えの混ざったような顔をしているというのに、怒りを向けられているスリムな男性は表情を崩さなかった。
怒りが伝わっていないかのように、真顔のままだ。
「ひとまず私の名刺を……おや。名刺入れが……」
スリムな男性は胸ポケットのあたりをまさぐりながら、ちょっぴり小首を傾げてみせた。
「おかしいな。確かここに入れたはずなのですが……ありませんね」
「おい! てめぇ!」
「どこにしまったか思い出しますので、少々お待ちください」
冷静なままの男性と、怒りを増幅させていく男性。
どんどん対照的になっていくふたりの元へと、一人の女性が……なぜか母が、歩み寄っていく。