独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
実家のことはあまり言いたくない。彼には言わない方が良い。
そう思っているのに、手を差し伸べようとしてくれていることを感じてしまうと、そのあたたかさにすがりつきたくなってしまう。
心の中にある憂鬱が喉まで出かかり……ぐっと堪えた。
「やだなぁ。困ってなんかないって! ほら! 秘書が睨んでるし、そろそろ本当に行った方が良いよ!」
やり取りの間ずっと、秘書が不満顔でこちらを見ていたのは本当のことだ。
無理矢理、私は倉渕君の身体を半回転させ、大きな背中を力いっぱい前へと押し出した。
そのまま素直に歩き出すも、彼は納得いかない様子で何度もこちらに顔を向けてくる。
私は軽く手を振り、そんな彼がビルの中へ入っていくのをただ黙って見送ったのだった。
彼の名前は、倉渕遼(くらぶちりょう)。29歳。
私と同い年でありながら、このビルの上階に入っている大企業、倉渕物産の専務を務めている男である。
社名と彼の苗字が同じなのは、偶然ではない。
鉄鋼製品から食品、流通や介護サービスなど、幅広い事業を展開する倉渕物産は、彼の曽祖父から続く会社である。
彼自身もゆくゆくはその跡を継ぐことになるだろう。