独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
対して、私は今、このビルの二階にある飲食店で働いている。いち従業員である。
しがないウエイトレスである私が、天下の倉渕物産の御曹司にさっきのような態度を取れてしまうのは、昔馴染みであり、気心が知れているせいである。
小学校から大学までずっと一緒で、子供の頃から、彼は私にとって負けてはいけない存在だった。
しかし頭脳明晰スポーツ万能の彼には、どう張り合っても勝つことができず、逆にからかわれてばかりいた。
周囲の大人たちの言葉もあり、なんて嫌味なヤツだと思っていたけれど、年を重ねていくうちに、そうでもないかもと徐々に思い始めていく。
困っていると「お前要領悪いんだよ」と言いつつ手を貸してくれるし、落ち込んでいるとさりげなく励ましの言葉をかけてくることもある。
彼の良いところが少しずつ見えてきたのだ。
完全に心を開くことは難しくても、時々は真面目な話をするようになり、結局、親とは疎遠になってしまった今も、彼との関係は変わることなく続いている。
私たちを取り巻く環境は、ちょっぴり複雑ではあるけれど、彼とはこのまま変わらずにいたい。
いつまでも、顔を合わせれば軽口をたたき合えるような、そんな関係でいたい。
友達のひとりでいられたらいい。そうありたい。
そびえ立つビルを見上げ、私は唇を引き結んだ。