独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
見覚えのある車が目の前で停まった。遼は迷いなく後部座席のドアを開ける。
「乗って」
「……う、うん」
言われるがままその車に乗り込むと、すぐに運転席に座っている女性がこちらに顔を向けた。
「西沖さん、大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です」
「良かった!」
この赤い車も、運転席から笑いかけてきた女性も、さきほど見かけている。間違いない。
そして思った通り、彼女は私のことを知っているみたいだけれど……やっぱり、私には覚えがなかった。
「まったく。いつまでも素直にならないから、こんなことになるのよ」
「分かったから、とりあえず車出せ」
私の隣に乗りこんできた遼へ、彼女はむっと顔をしかめた。
「お兄ちゃん! 協力してあげたのにその態度は無いんじゃないの!?」
「お兄ちゃんっ!?」
飛び出した言葉に、つい過剰に反応してしまった。
「……あっ。そうでした。初めましてでしたよね。私、倉渕花澄(かすみ)です。倉渕遼の妹です」
妹がいるのは知っていた。美人だという話も聞いたことがあった。
けれど私は、本人を見たことがなかった。
しかし言われてみれば納得だ。
文句なしの美人だし、笑った顔もどことなく遼に似ている。