独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
「あの。私、西沖麻莉と言います」
「知ってます。私、学生の頃、西沖さんのことけっこう観察してましたから。初めましてって感じが全然しません」
「か、観察?」
思いもよらぬ事実に唖然としていると、遼がゴホンと咳払いした。続けて、前方を指さした。
早く車を出せと言う催促を受け、妹の花澄さんはしぶしぶと言った様子でシフトレバーに手をかけた。
「これからどこに行けばいいの?」
「そうだな……」
「ねぇねぇ。お腹空かない? 何か食べたいなぁ。もちろんお兄ちゃんのおごりで」
握りしめていたスマホを胸元にしまったあと、遼が私へと顔を向ける。すっと、右手を伸ばしてきた。
「麻莉。今日は何か食べた?」
わずかに目を細めて、彼が私の頬に触れてくる。
手の平の温かさと、耳たぶを掠める指先、自分を見つめる優しい眼差しに、自然と胸が高鳴っていく。
今日はまだ何も食べていない。
ぼんやりする頭で記憶を辿りながらも、私は遼から視線をそらせぬまま、ゆるく首を振る。
「ん。じゃあとりあえず、何か食べるか。リクエストは?」
これといって、食べたいものはない。遼の隣にいられるなら、それで満足だ。
私はちらりと運転中の花澄さんを見た。
ここは私ではなく、協力してくれた花澄さんのリクエストに応えるべきではないだろうか。