独占欲全開で、御曹司に略奪溺愛されてます
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“西沖”という木製の表札をじろりと見てから、開けてもらった門扉を重い足取りでくぐり抜けた。
家政婦のあとに続いて石畳を進みながら、相変わらず綺麗に整えられている庭の木々に目を向けていると、遠くから「まぁ!」と女性の驚いた声が聞こえてきた。
「麻莉(まり)お嬢様!」
私は足を止め、車庫の方から足早に歩み寄ってくる女性へと頬笑みかけた。
「喜多さん。お久しぶりです。お体に変わりはありませんか?」
喜多さんは対応してくれた家政婦を下がらせると、改めて私と向き合い、にっこりと笑いかけてきた。
「それは私の台詞でございますよ、お嬢様! ちっともお顔をみせてくれないものですから、心配しておりました」
「…ごめんなさい」
私の手を取り両手でぎゅっと握りしめてきた喜多さんの目には、涙が浮かんでいる。
それに気付いてしまえば、謝ることしかできなかった。
私の目の前にいる割烹着姿のふくよかな年配の女性は喜多(きた)さんと言い、家政婦として西沖家で長年働いている人だ。
そして、喜多さんが口にした麻莉お嬢様というのは……私のことである。
「さぁさぁ。中へお入りください」
その一言に、思わずため息が出てしまった。憂鬱さが舞い戻ってくる。