檸檬の約束
駅に着くと新幹線の切符を買った。

実家に帰ろうと思っていた。

最終の時間までbranいることにした。

夜はバーだが昼間はカフェとして営業している。

「マスター」

「今日、実家に帰ることにしたんです」

「そうなんですか。」

私は紅茶を頼むとカウンターに座った。

カウンターの端っこに見慣れないものが置いてあった。

「それは昨日、お客さんが置いて行ったんです。」

「今日は七夕ですからね。」

七夕。

織姫と彦星が年に一度だけ会える日。

年に一度しか会えない恋人と私はどちらが悲しいんだろう。

「願い事をしてみませんか?」

「いいです。」

「きっと叶わないから。」

「今日は晴れそうです。」

「あなたも彦星にきっと会えますよ。」

紅茶を飲み干したころ、少しずつ店内に人が入ってきた。

昼間は女の子が多い。

カラン。おじさんが入ってきた。

「莢。」

声の主は綾人だった。

「一緒に帰ろう。」

「帰れないよ。」

「約束、破っちゃったんだもん。」

「檸檬パイになったから約束は無効だよ。」

意味、解ってくれたんだ。

ひとつめの檸檬は私。

ふたつめの檸檬は綾人。

みっつめの檸檬はお互いの好きだった人。

檸檬パイに閉じ込めて祈った。

この想いが通じますようにと。

「綾人、大好き。」

周囲の目も気にせず私は綾人にキスした。

「俺も莢が好きだよ。」

今の私は天空の恋人と同じくらい幸せだ。

「今日が七夕だって知ってた?」

「いや、忘れてた。」

「願い事は?」

「もういいよ。」

「莢がこれから一緒にいてくれるなら、それでいい。」

新しい、約束をしよう。

指切りげんまん。

「ずっとずっと一緒にいて、あなたの隣で笑っているよ」



---end---






< 8 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop