Maybe LOVE【完】
好きとか嫌いとかどうでもいい。
そんなのいらない。
本気になれば、悲しいことは必ずやってくる。
それがどんな形であれ、幸せばっかりではいられない。
誰だってそうだってわかってるけど、辛いのはもう嫌だ。
誰かに想われることは幸せなことだと思う。
これ以上ない幸せだってことも知ってる。
でも、訪れた悲しみはそれでは埋められないし、忘れられない。
悲しい思いをするくらいなら、そんな感情いらない。
「なんで黙って聞いたままなのよ」
もっと惨めになるくらい私を笑ってほしいのに。
私を否定して拒否してほしいのに。
そんな女なんていらないって言ってほしいのに。
「なんで、そんな顔っ・・・」
じっと私を見つめたまま何も言わない。
私を哀れむことも、笑うこともしない無表情。何を考えてんのか、私にはわからない。
ここで素直に泣ければ抱きしめてくれるんだろうけど、そんなことが出来るわけでもない。
そんな技術は数年前に捨てた。
甘えることなんて、どうする行為か忘れてしまった。
「バカじゃないの」
「それはお前だな」
頭を撫でられる。
胸がギュッと締め付けられる。
目頭が熱くなる。
でも、泣けそうにない。泣けない。
「もっと甘えていいんだぞ。嫌なことは嫌だって言えばいい。流されるから自分を忘れるんだ」
抱き寄せられる。
カオルの温もりに包まれる。
胸が、固くなってた感情が自然に緩んでく。
「泣いてもいいぞ?」
服が伸びるだろ、と私の手に触れる。
無意識に服を握り締めていたこの手が緩んでしまったら、もう止められないことはわかってたのに、カオルの手に促されて力を緩めてしまう。
「っ、もう、ヤダっ」
カオルの笑う声が聞こえてイラッとしたけど、私は数年ぶりに泣いた。
今まで貯まっていた涙が一気に溢れた感じ。
なんでこの男なんだろうって思いながらも泣いてた。
なんでこの男の前で泣いてるんだろうって思った。
カオルは何も言わずに、私が泣き止むまで傍にいてくれて、抱きしめてくれていた。それが心地良く感じて、そう感じる自分が嫌になった。
「カナ」
「なに」
泣きやんでからの呼びかけに泣き顔を見られたくなくて、鼻声で返事をして俯く。
カオルが濡れタオルを持ってきてくれて、それを鼻と目元に押し当ててた。
「こっち向け」
また命令なの?とタオルから目だけを出すと、「もういいだろ」とタオルを取られた。
「ちょっと!」
「邪魔だ」
隣で座ってたカオルが私の顎を掴んで顔を上に向ける。
至近距離に一瞬ドキリとしたけど、睨んでやった。
「雰囲気もクソもねぇな」
「雰囲気って何する気よ」
そう言うと「確かに」と納得したように私の顎を掴んだ手を離して考える。
でもそれも一瞬で、また私の顔を見た。
「仮にもお前のことが気になるって言ってる相手にそんな無防備な顔をするお前が悪い」
は?と思ったときには終わってた。
「何もしないとは言ってないぞ」
にっこり笑うカオルから逃げたのは言うまでもない。
でも嫌な感じはしなかった。
確かに何も言わなかったし、それを聞かなかった私も悪いと思う。
「だからってっ」
「いずれ俺のモノになるんだ。早く戻ってこい」
自分の隣をぽんぽんと叩く。
ありえない。
ありえないけど、こんな空気も悪くない。
少しむず痒くなる感覚に全身が麻痺を起こしそうになる。
この男の隣に座れば、きっと抱きしめてくれる。
“男”の匂いのするカオルに包まれる。
それも悪くないような気がする。
でも、それに慣れてしまえば、カオルに流されそうな気がする。
―――それも悪くないのかもしれない。
私は促されるがまま、ソファへ一歩進んだ。
-END-
2017.02.07