Maybe LOVE【完】


こうやって改めてあたし達の関係を言葉にすると“なんて曖昧な関係なんだ!”と思うのと同時に“なんて都合のいい関係なんだ!”と思えて笑えてくる。

完全な飲み友達化してるあたし達。
初めて会ったあの日からカオルはあたしに対して優しい。
それが特別な優しさじゃなく、あたしが酔いつぶれてるから介抱してるだけ。
それを特別な優しさだと捉える友達はあたし達の関係を知らないから言えるだけのこと。

「お前、……いや、いい。今はいい。先、風呂入って酔い冷ましてこい」

何を思って、何を言いかけたのかはわからないけど、何か言いかけて止めたカオルに違和感は残るものの言われた通りにお風呂に入った。

温かいお風呂。
カオルは元々湯船に浸からないらしくて、あたしが泊まるようになって初めて湯をはったらしい。
初めてそれを聞いたとき、「お湯に浸からないと疲れとれないよ」と言うと「一人暮らしで湯はったって勿体ない」と言っていたような気がする。

酔いも冷めて、はっきりとした意識とほこほこした体でリビングに戻るとテレビを見ているカオルの背中があった。
いつもは「飯は?」って聞いてくるのにそれがないと変な感じがする。

いつだってあたしを構ってくれるカオルから言葉がないと不安になる。
いや、不安というより寂しさの方が今は勝ってる。

いつからなのかわからないけど、あたしの中のカオルを占める割合は日毎に増しているような気がする。
いや、気がするじゃなくて、している。

好きだとか嫌いだとかそういうことじゃなくて、傍にいるかいないか、安心するかしないか。

あたしはカオルといて安心するし、“男”を感じる瞬間があっても“これがカオルなんだ”と思うことができる。
それがあたしにとって大きな変化で複雑なところで、あたしがこの気持ちをカオルに伝えたことはない。

一時でも……すでに気を許しているなんて知られたら、それこそ恥ずかしすぎて耐えられない。
あの時はあたしの事が気になる存在だと言っていたけど、カオルがあたしをこうして家に泊めるということは友達であるということを証明してる。

今はまだ恋ではないあたしの感情もこのままだったら超仲良い飲み友達に変わっていくに違いない。
だからあたしは、今ある微妙な感情の方向性を定めなければいけない。

こうして泊まっているのも気が引ける時だってある。
それを無くすにはやっぱり、自分の気持ちを固めなきゃいけないんじゃないかって思う。

ソファーに座ってテレビを見ているカオルの隣に座る。
やっぱりカオルはあたしに話しかけることなくテレビを見てる。

それだけで構ってほしいなんて思うあたしはすでに片足を突っ込んでるのかもしれない。
厄介なもんだな、と思いながらも深く腰掛けた。
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