Maybe LOVE【完】
「あれ?」
背後から声が聞こえた。
あれ?って何か見つけたのかな?とか思いながら聞こえないフリをしてた。
背後ではタバコに火をつける音と、お店のスリッパの擦れる音が近づいてきている気がする。
「電話じゃねぇの?」
足音が止まり、ガードレールを越えて道路側で立ってる私の隣にガードレールを挟んで並ぶ男の人。
ずれた背中合わせの状態で知らない人に話しかけられて簡単に返事をするほど私もバカじゃない。
隣でタバコの煙を吐き出すのを無視して黙ってた。
「あの空気に耐えられなくなった?」
くすくすと笑いながら、またタバコの煙を吐く。
一体コイツ誰なの?と顔を確認すると、思わず目を見開いた。
「あ?なんだ、その顔」
隣にいる人はさっきまで同じ空間にいた人。
一番席が遠くて、第一印象的は“絶対この人とは話さない”って思っていた。
その人がなぜ隣でタバコを吸っているのだろうか。
タバコなら全員あの空間で吸っていたし、見てないからわからないけど、この人だってあの空間で吸っていたに違いないのに、どうしてわざわざ外に出てきたのか。
まぁ、気にしたって仲良くなるつもりはないし、なんてない話をしたって今日限りの人。
飲み会に参加していた、いちメンバーとして明日になれば忘れる存在。
「出会いを求めにきたんじゃないの?」
顔を確認すれば、この人に用事がない私は顔を戻して、携帯を開けたり閉めたりを繰り返すと投げかけられた質問。
“出会いは求めないとやってこないんだよ”
誰かが言ってたけど、今は興味がない。
やりたいことの方が多いし、それを彼氏のせいで出来なくなるのは勘弁してほしい。
こんなところに来ていてなんだけど、そもそも初対面の男の人が苦手だし、こういう席で会う男性のスキンシップがすごく苦手。
「ここに来たって事はそういうことなんだろ?」
「別に、ただの人数合わせですから」
黙っていれば無限に質問され続けられそうで、仕方なく返事をした。
「確かにあの雰囲気は出会い求めてる空気じゃなかったな」
アイツらが可哀相だ、とまた笑う。
「・・・息抜きですか?」
言葉を出すのに少し躊躇したのは、この人の名前を知らなかったから。
知っていたら呼べるのに、自己紹介から全く聞いてなかった私は全員の名前を覚えていない。
必要ないと思っていたけど、こうして予想せず話すとなると困る。少しだけ、塵くらいだけど名前を聞いておかなかったことを後悔した。
こういう部分で生真面目な自分に嫌気がさす。
「いや、俺も人数合わせだから」
同じだな、と笑いかけられても困る。
少なくとも、この人は今回のメンバーと同世代で話が盛り上がるはずなのに、“人数合わせ”なんて言われても、私の僻んだ思考は“お前は完全にアウェーだけどな”っていう嫌味な笑顔に見える。
これ以上会話もしたくなくて、ひと睨みして顔を背けた。
「なぁ」
短くなったタバコを落として靴で火を消す。「それが世に言うポイ捨てですよ」と言ってやりたい。
どうでもいいけど、もう話しかけてこないでほしい・・・と腰を浮かして場所を離れようとすると腕を引かれて、嫌でも立ち止まった。
「なにすん、」
「その携帯貸して」