Maybe LOVE【完】
恋人達のクリスマス
今日はクリスマス。
……そう、クリスマス。
街はクリスマスカラーで彩られ恋人達は幸せそうで微笑ましい。
年に一度の大イベントであり、幸せになれる日でもある。
毎年クリスマスは友達と家でパーティーを開いてた。
オードブルを注文して仲間とワイワイ騒ぐ。
飲んで笑って騒ぐのが恒例でクリスマスプレゼントの交換があたし達の一大イベントだった。
ただ今年は違う。
今年は仲間と一緒じゃないし、この日が近づくにつれて心身ともにやつれていくような気がした。
クリスマスは嫌いじゃない。
別に何がどうってこともない。
だけど“敢えて”、敢えて言うとするならば今年は“友達”とじゃなくて“彼氏”と過ごすということ。
友達には散々羨ましがられたけど、本当は友達とバカ騒ぎしたい。
でもその友達が“彼氏優先にしろ”って言うから今の状態に至ってる。
あたしは世間が騒ぐほど“恋人たちのクリスマス”を重視してなくて、むしろ一緒にいなくても全然問題ない。
だけどそんなことを口にすると今となっては常識となりつつある“恋人たちのクリスマス”を重んじる人たちや恋人のいない人たち(友達)に怒られそうな気がして口には出したことはない。
あたしの中ではそうで、少し世間とは違うことをわかってもらいたいだけなんだけれども。
駅の前にある公園のベンチに座ったのが今から40分前で待ち合わせ時間の5分前。
現在の時刻は18時30分。
人生で初めての待ちぼうけをくらってる。
今日は日曜日だから人が多い。
それにクリスマスだからか手を繋いだカップルが数え切れないほど目の前を行き来する。
その中で30分オーバーの待ちぼうけをくらっているうえに前を通り過ぎるカップルの哀れみの視線が痛い。
あたしだって好きでこんな所にずっと座り続けてるわけじゃない。
動いてないから寒いし、いつ連絡が入るかわかんないから動けない。
どうしようもない状況に“帰ってパーティー参加”という選択肢もちらつき始めてる。
どうしてこんなに待ってるんだろう。
友達と遊ぶ時だってこんなに待たなかったし、どちらかと言えば待たせる側。
だから待てないっていう意味じゃなくて、この待ち時間がすごくむなしく思えて苦しい。
無駄だとは思わないし待つことが苦なわけでもない。
ただ、待ちぼうけをくらう恋人はこんなに辛いのかと初めて知った。
幸せそうに手を繋ぐ恋人たちを見て一人の自分がむなしくて寂しくて・・・そこまで考えて、どこの乙女だよと考えるのをやめた。
自分の気持ち悪い思考を首を振って取り除く。
同じタイミングでバッグで震える携帯を取り出し、発信者を見て溜息を吐き出してから電話に出た。
「……はい」
《悪い》
「うん」
《・・・今終わった。向かう》
少しの間。
悪いと思ってはいるんだろう。
なにしろ1時間近くも待ち合わせ時間から過ぎてるんだから。
《場所は?》
「場所?」
《待ってる場所》
家で待ってる、そう言ってやろうか。
そしたら焦るかな?呆れるかな?思ったけど、やっぱりここは雰囲気も大事にしなきゃいけないと思うから。
「駅」
《わかった》
「駅の前の公園」
《すぐ行く》
そう言って切れた電話。
向こうでキーの音と車のドアが閉まる音がした。
急いでることがわかるほど荒々しい音。
それだけで少しは気が軽くなった。
会社からここまで20分はかかる。
手に自分の息を吐き出す。
冷えきっている手は持ってるカイロなんて無意味。
きっと顔も真っ赤になってて会ったら爆笑されちゃうような顔になってるんだろう。
「まぁ、それもいいか」
当てつけにするつもりはないけど、そんなあたしを見ていつもより少し優しくしてくれたらいいなぁなんて淡い希望を持ちながら通り過ぎるカップルを眺めてた。