Maybe LOVE【完】

「カナ」

名前を呼ばれて顔を上げるけど誰もいない。

「どこ見てんだよ。そこにいろよ」

足音のする方を見るとあたしから離れていくカオルがいた。

自販機でホットコーヒーを買ってくれたらしい。
手の上に落とされると冷たすぎる手には熱いくらいだった。

「悪い。連絡出来なかった」
「うん」
「…行くか」

目を合わさないあたしに何を言ってもダメだと思ったのか諦めたらしいカオルは左手を差し出した。
その左手を見てカオルを見て、もう一度左手を見てから自分の右手を差し出した。

「冷たいな」
「うん」
「・・・」

無言になったカオル。
きっとあたしが頷くだけだから調子狂うとか怒ってるとかそう思ってるんだろう。
本当は今喋ったら唇が震えてすごい寒いと思ってるのがバレてしまいそうで迂闊に話せないだけ。
それが逆に気を遣わせてるんだろうけど。

「どうして手袋してないんだ」
「忘れた」

ギュッと握る手が強くなったと思ったら手が離れて、目の前の車のロックが解除され助手席を開けたカオルに中に入るよう促される。
さっきまで暖房を付けていたからか車内はまだ暖かい。

互いに何も話さないまま１０分ほど車を走らせて着いた先は“家”。
家と言ってもカオルのマンションでもなく、あたしの家でもない。
誰の家なのかわからないけど、一軒家の駐車場に車を停めた。

カオルが車を降りるから続いて降りる。
カオルはその家に向かうと躊躇うことなくインターフォンを押した。
数秒後、ガチャンと鳴り、ロックが解除されたのか、これもまた躊躇うことなく玄関を開けた。
大丈夫なの？と思いながらも恐る恐る玄関を抜ける。

「・・・・・」

びっくりするような内装にあたしはただただ唖然とした。

「待ちくたびれたよ、カオル」
「悪い。仕事でな」
「後ろの可愛い子は例の彼女？」

後ろを付いて歩いてると思ってたのか、ようやくあたしを見たカオルは何事もないように「カナ」と呼んで引き寄せた。

「シゲル。腐った縁仲」
「紹介の仕方がひどいよ。幼なじみのシゲルです。よろしくカナちゃん」

にっこり笑うベビーフェイス。
カッコイイというより可愛くてカオルの友達っぽくなくて驚いた。

「はじめまして、カナです」
「可愛いなぁ。この子がカオルの彼女だなんて最悪だなぁ。俺達少し出会うのが遅かったね…カオルより早ければよかったのに」
「お前、結婚してんだろ」

呆れながら言う表情に“やっぱりカオルの友達だ”と思えた。

優しい雰囲気とおっとりとした話し方で相手を安心させる力がある。
初対面に警戒するあたしでもなんだか見てるだけで癒される。
カオルとは正反対。

カウンターに座るカオルの隣に並んで、出されたおしぼりを受け取りながらシゲルさんの顔を見てからカオルをみた。

「なんだ？」

横目でカオルを見てたのがバレたから「癒し系だね」とシゲルさんを見ながら答えた。

「俺と正反対とか思ってたんだろ」
「よくわかったね」
「目が言ってた、目が」
「言ってないし」

なに言ってんの？と言い合うあたし達に「仲良しだねぇ」と言いながらサラダを出してくれたシゲルさん。

二人分なのか大きな皿に盛られてる。
取り分けてカオルの前に置く。

そうしてる間に飲み物が置かれて、頼んでないよね？と首を傾げると「俺のオリジナルカクテル」とピンクの可愛いカクテルを出してくれた。
カオルは車だからお水が出されていた。

「おい、コイツに酒は頼んでないぞ」
「だって可愛いから特別に」
「コイツに酒入れると底がないぞ」

失礼な！と思いながらも事実、カオルの家で飲むようになって強くなってるし泥酔もなくなってきた。
それはカオルに止められてるからかもしれないけど。

「確かに強そう。性格も強そうだけど」
「強いぞ」
「ちょっと！」
「だってカオルと付き合うくらいだもんねぇ。強くなきゃ無理だよねぇ」

二人で好き勝手言うのを止めずにお酒を半分飲んだ。
「味わえよ」とお酒が飲めないからなのか文句を言うカオルを無視してサラダも食べた。