Maybe LOVE【完】

改めて店内を見渡す。
一軒家の一階部分を全てお店にしてあるから結構広い。
ダークブルーを基調に間接照明で照らされた店内。
ジャズが心地好い。

お手洗いを見つけて椅子から立ち上がると意外にも足にふらつきがあった。

「ほらみろ」

カオルが溜息吐きながら支えてくれる。

「お前気付いてないだろうけど度数の高い酒ばっか飲まされてんだぞ」
「はい?」
「全部ウォッカベースで作ったから」

ニコニコされても困るんだけど、と思いながらも怒っちゃったカオル。

この機嫌を直すには時間がかかる。
でも飲んじゃったもんは仕方ない。
カオルの肩を借りて姿勢を正してからお手洗いに向かった。

本当にお酒に強くなったと思う。
最初は飲んだらすぐに赤くなってた顔も今ではほのかにしか出ないし短時間である程度の量を飲めるようにもなった。
ただ、自分が酔うまでの加減が分かってない。

カオルが怒るのはそういうことで、今日だってカオルがいると思って安心して飲んでたけど結果限度オーバーでふらついてる。
お酒が強くなったからって調子に乗ってるとこういうことになる。

しかも今日はクリスマス。
今回ばかりはあたしが悪いし不機嫌になってもあたしにはどうしようもない。
鏡に写るほのかに顔を赤らめた自分を見て溜息。
きっと精算は済んで店を出るんだろう。

長い息を吐きながらドアを開けると席を立ったカオルがいてシゲルさんがあたしを見て微笑んでた。

「気分はどう?」
「気分はいいだろ」

ちくちくとトゲのある言い方に文句も言えず、黙ってカオルを見たけど視線を逸らされる。

「カオル怒ったら長いしくどいでしょ」

空気読めないのかシゲルさんは笑ってあたしに同意を求めようとするし。
外れてないだけに何も言えないけど、機嫌を損ねたカオルをどうやって機嫌を直してもらおうか必死で考えてる。

カオルが席を立って「ごちそうさん」と言って出口に向かってる。
会計は?!と思っても既に終わってるだろう。
いつもあたしがお手洗いの間に済ましてる。

シゲルさんと向かい合い「ごちそうさまでした」と頭を下げた。

「またカオルがいない時に友達と来てね。一人でも大歓迎だよ」
「カナ、早く来い」

声の方へ向くと眉間に皺を寄せながら煙草に火を点けてるカオルがいた。
火を点け終えるとあたしとシゲルさんを交互に見てからあたしを見た。
それはもう鋭い眼力で。

「えっと…、カオルが怒ってるので失礼します」

シゲルさんは「うん、またおいで~」と可愛い笑顔でニコニコしながら手を振ってくれた。
駆けるようにカオルの傍に行くとドアを開けてくれて外へ出た。
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