Maybe LOVE【完】

お酒の入った体に夜風は意外と気持ちいい。
駐車場までの道のりは互いに話すことなく歩く。

車に乗り込むと冷えた車内が予想以上に寒くお酒も一気に冷めた。
そんなこと口に出せなくて横目でカオルを見るけど無表情の無言だから何を考えてるのかわからない。

車を走らせて5分、ある駐車場に停めるとカオルが外に出た。
あたしも出るべきか悩んでいると助手席に回ってきたカオルがドアを開けて「降りろ」という。

「ちょっと歩くぞ。酒抜け、酒を」

そう言ってカオルは唖然としたあたしを放置して歩きだす。
ほんとに放置なの?と思いながら小走りでカオルの隣に並び腕を組んだ。
上から見下ろされたけど特に何も言わず片手で煙草に火を点けると繁華街の方へ向かった。

いつもデートの時に腕を組んだり手を繋いだりするのはあたしから。
どうして?と聞くことも嫌なの?と聞くのも、どちらも違うような気がしたから聞いたことないけど、あたしがそうしないとずっと離れて歩いてたのかな?とふと考えた。

歩くのが遅いあたしに合わせて歩くのはきっとしんどい。
でも黙って合わせてくれる。
若干引っ張られてる感はあるけど、それも別にいい。

大通りに出るとライトアップされた街にそれを眺めながら歩く恋人達。
写真を撮ったり眺めたり綺麗だねって微笑みあったり。
普段何もない並木道もクリスマスってだけでこんなにも輝いてる。

何度も歩いてるはずなのに、クリスマスに歩いたこともあるのに、隣に並ぶ人が変わるだけでこんなにも景色が変わる。

カオルとの距離を詰めて「綺麗だね」って言ってみた。
飲み過ぎたことに怒ってるのは分かってたからちらりと確認するように見ると、ほんの少しだけ微笑んだ。
それから耐え切れなくなったように声を出して笑った。

「なんで笑うの」
「お前がイルミネーションを綺麗だって言うなんて」
「ほんとの事じゃん」
「“電球の寄せ集め”って言ってたの誰だよ」

くすくす笑うカオルに墓穴掘った自分の言葉に恥ずかしくなったけど、本当に綺麗だと思った。
いちいち説明してもきっと笑われるから黙って返事することをやめた。

「酒のせいか?クリスマスにあてられたか?」

からかうカオルに「あてられたかもね」と言うと優しく笑った。

こんな他の人が聞けば“ロマンがない!”って言われそうな会話もカオルとだから出来る。
カオルだってあたしがこういう人間だってわかってるから笑ってくれる。
世の中の全ての恋人達が相手を改めて好きだと思える日が今日という日なのかもしれない。

本当にクリスマスにあてられたのかあたしらしくない考えだと思うけど、カオルだからあたしは今素直な自分でいられるし、これからも同じ時間を過ごしていけたらと思える。

「カオル、寒い」
「俺も。帰るか」

ほんの少しの世間と同じ恋人達をして、また本来のあたし達に戻る。
カオルは“電球の寄せ集め”って言ったことを持ち出したけど笑っていたから、きっと夜景とかイルミネーションとか興味ないはず。
ただあたしのお酒を抜くためとクリスマスだからってことでそれらしいことをしたんだと思う。

「カオルだってあてられたんじゃない?」
「俺はあてられてねぇ。こんな日もあっていいかと思っただけだ」
「あてられてんじゃん」

あたしがからかうと罰が悪そうな顔をしてごまかすように煙草に火を点ける。

もういつものパターン。
それを指摘したらさらに拗ねるから言わないけど、カオルと付き合うようになってから色んな癖を無意識に覚えるようになった。
だから次にカオルがどの行動に出るのか予測できる。

次だってほら、車のロックを解除したら助手席を開けてくれる。
これは稀にしかしてくれないけどクリスマスにあてられたからしてくれるだけ。
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